カスハラ対策義務化は2026年10月|宅配業4割超の実態と企業の義務

ryouma ニュース

おはこんばんにちわオッサンです。

2026年10月からの**カスハラ対策義務化**。その話をする前に、まずオッサンが実際に食らったクレームを聞いてほしい。

置き配(ドア前置き)指定なのに、マンションがオートロックで建物に入れない。……

ryouma

……これ、オッサンが実際に食らった話だ。

結論から言うと、2026年10月1日から、すべての事業主にカスハラ(カスタマーハラスメント)対策が法律上の義務になる。労働者が1人でもいれば対象だ。厚生労働省の調査では、宅配業で過去3年間にカスハラを受けた人が42.6%、ヤマト運輸の社内アンケートでは約8割という数字も出ている。

この記事では、義務化で企業が何をしなければいけないのかを出典つきで整理したうえで、配達する側から見て何が変わるのか、そして受け取る側は何に気をつければいいのかまで書いていく。

[画像挿入:オートロックのマンションエントランスと宅配の荷物/alt=”置き配指定とオートロック カスハラ対策義務化”]

目次

  1. 結論:2026年10月1日から何が変わるのか
  2. そもそも「カスハラ」の定義は法律でこう決まった
  3. 企業がやらなければいけない10の措置
  4. 罰則はある?違反したらどうなるのか
  5. データで見るカスハラの実態(全業種10.8% vs 宅配業42.6%)
  6. ヤマト運輸「約8割」の正しい読み方
  7. カスハラの最前線は、実は配達員ではなく電話窓口だった
  8. 実体験:持ち戻ってもクレーム、置いてもクレーム
  9. 受け取る側が知っておきたい「これはアウト」の線引き
  10. よくある質問(FAQ)
  11. まとめ

結論:2026年10月1日から何が変わるのか

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスハラ対策が事業主の「雇用管理上の措置義務」になる。

これまでカスハラへの対応は、企業ごとの自主的な取り組みに任されていた。「うちはやる」「うちはやらない」が選べる状態だったわけだ。それが10月1日を境に、やらなければ法律違反という扱いに変わる。

ポイントは3つ。

  • 対象は全事業主。業種も企業規模も問わない。労働者が1人でもいれば該当すると解されている
  • 中小企業向けの猶予期間も設けられていないとされている。パワハラ防止法のときは中小企業に猶予期間があったが、今回は同様の経過措置が確認できない(厚労省のリーフレットにも猶予に関する記載はなく、弁護士・社労士の解説でも「猶予なし」とするものが複数ある)
  • 講ずべき措置の中身は指針で具体的に決まっている(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公布)

つまり「うちは小さい会社だから、しばらくは様子見でいいか」が通用しない。

そもそも「カスハラ」の定義は法律でこう決まった

法律上のカスハラは、次の3つの要素をすべて満たすものと定義された。

  1. 職場において行われる顧客等の言動であって
  2. その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

ここで押さえておきたいのが、顧客からの苦情のすべてがカスハラになるわけではないという点だ。厚労省のリーフレットにも明記されている。正当なクレームと、社会通念上許容される範囲を超えた言動は別物として扱われる。

「社会通念上許容される範囲を超えた」は、さらに2方向から判断される。

【言動の内容が超えているもの】

  • そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

【手段や態様が超えているもの】

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
  • 威圧的な言動
  • 継続的、執拗な言動
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

厄介なのは、この2つの「一方だけ」が超えていても該当し得るということ。要求内容自体は正当でも、伝え方が暴力的ならアウトになる。逆に、口調は丁寧でも要求が明らかに理不尽ならアウトになり得る。

なお、電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含まれる。「対面じゃないからセーフ」ではない。

企業がやらなければいけない10の措置

厚労省の指針で定められた措置義務は、大きく5つのグループ、全10項目だ。

◆事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  1. カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
  2. カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する

◆相談体制の整備 3. 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する 4. 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする

◆事後の迅速かつ適切な対応 5. 事実関係を迅速かつ正確に確認する 6. 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う 7. 再発防止に向けた措置を講ずる

◆抑止のための措置 8. 特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、対処を行える体制を整備する

◆そのほか併せて講ずべき措置 9. 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する 10. 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

この中で8番だけが、パワハラ・セクハラの措置義務には存在しないカスハラ特有の項目だ。厚労省のリーフレットでも太字で強調されている。加害者が社内の人間ではなく外部の顧客だからこそ、「抑止」という発想が必要になる、ということだろう。

ちなみに2番の「対処の内容」の例として、厚労省はこう挙げている。

管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ 等

可能な限り労働者を一人で対応させない」が国の指針に書かれた、というのは地味に大きい話だと思う。

また、ここでいう「労働者」にはパート・アルバイト・契約社員などの非正規雇用労働者、派遣労働者も含まれる

罰則はある?違反したらどうなるのか

直接の刑事罰(懲役や罰金)は規定されていない。ただし、企業名を公表される可能性がある。

流れはこうだ。

報告徴求命令 → 助言 → 指導 → 勧告 → 勧告に従わない場合は公表

「罰金がないなら実質やらなくてもいい」と読むのは危険だと思う。カスハラ対策をやっていない会社として社名が世に出るダメージは、金額に換算しづらいだけで小さくない。採用にも取引にも響く。

データで見るカスハラの実態(全業種10.8% vs 宅配業42.6%)

ここからが本題。数字を並べると、業種による差がはっきり出る。

全業種の平均

厚労省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(労働者8,000人対象)によると、**過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた労働者は10.8%**だった。参考までに、パワハラは19.3%、セクハラは6.3%。

注目すべきは企業側の回答だ。パワハラ・セクハラを含む6種類のハラスメントのうち、「件数が増加している」が「減少している」を上回ったのはカスハラだけだった。他のハラスメントは減少傾向なのに、カスハラだけが増えている。

宅配業はその4倍

一方、厚労省が令和7年度に宅配業で実施した実態把握調査(回答者18,715人)では、数字がまるで違う。

過去3年間にカスハラを受けたと回答した人は42.6%。 全業種平均10.8%の約4倍だ。

被害の中身も見ておきたい。

 
 
 
 
 
 
行為類型 割合
威圧的な言動(大声で責める等) 70.3%
継続的な、執拗な言動 61.8%
精神的な攻撃(脅迫、中傷、暴言等) 58.1%
拘束的な言動(居座り、長電話等) 30.7%
差別的な言動 16.2%
個人への攻撃(プライバシーの侵害等) 15.1%
土下座の要求 7.6%
身体的な攻撃(暴行・傷害等) 5.6%
 
 
 
 
 
 

土下座の要求が7.6%、暴行・傷害が5.6%。「数パーセントか」と思うかもしれないが、母数が18,715人なので、土下座を要求された人は1,400人規模ということになる。

そして心身への影響がきつい。

  • 怒りや不満、不安などを感じた: 79.7%
  • 仕事に対する意欲が減退した: 59.2%
  • 強い心身への影響があった(不眠、通院・入院、欠勤等): 15.8%

さらに現場の対応状況がこれだ。

  • 謝り続けた: 57.1%
  • カスハラを受けたあと何もしなかった: 24.0%
  • カスハラの判断基準がわからない: 40.4%

判断基準がわからないから、とりあえず謝り続けて、誰にも相談しない。この構図が数字で出ている。今回の義務化が「判断基準を会社として決めて周知しろ」と求めているのは、まさにここに効かせるためだろう。

ヤマト運輸「約8割」の正しい読み方

ネットで「ヤマト運輸の8割がカスハラ被害」という話を見かけることがある。オッサンも最初はそう受け取った。この数字は実在するが、そのまま受け取ると誤読になる。

出典は厚労省のハラスメント対策サイト「あかるい職場応援団」に掲載されている企業事例。原文はこうだ。

取組を始めるにあたり、まずコールセンターのオペレーター向けにアンケートを実施しました。その結果、オペレーターの約8割がカスハラと思われる被害に遭っていたという実態が明らかになりました。

つまり、

  • 対象は「コールセンターのオペレーター」。宅配ドライバーではないし、ヤマト運輸の全社員(約18万人)でもない
  • 社内アンケートであって公的統計ではない。回答者数や調査時期は公表されていない
  • 対応マニュアルの作成が2020年10月なので、アンケートはそれ以前とみられる

「ヤマト運輸で8割がカスハラ被害」と書くと不正確。「ヤマト運輸のコールセンターのオペレーターの約8割」が正しい。

ちなみに、この取り組みのきっかけになったエピソードが企業事例に載っていて、これが生々しい。同じ顧客から「(一次対応者の)態度が悪い」「フルネームを教えろ」「お前は向いていない。やめろ」「まだやめていないのか」といった苦情が繰り返され、オペレーターが恐怖で萎縮。まじめな性格ゆえに「私の対応が良くなかった」「私が会社に迷惑をかけてしまっている」と思い込み、約1か月間、コールセンター業務への復帰が困難な状況に陥ったという。

そこから経営層の「社員の健全な業務を守らなければならない」の一言で対策が本格始動した、と記されている。

ヤマト運輸が2020年時点でやっていたこと

義務化の6年前の話だが、内容が今回の措置義務とほぼ重なっているので挙げておく。

  • 「カスハラ発言リスト」:「一度でもアウトな発言」(例:「死ね」「殺すぞ」)と「繰り返されたらアウトな発言」(例:「あほ」「お前じゃ話にならない」)に分類し、前者は即座に管理者へ電話を交代するフローに
  • 「文言集」:交代時の言い回しなどをテンプレート化
  • 二段構えの伝え方:一次対応者はまず「脅されているようで怖いです」と自分の気持ちを正直に伝える。それでも収まらなければ、交代した管理者が「あなたの行為は〇〇といった点でカスハラです」と客観的に伝える
  • 24時間受付の専用相談窓口
  • 全社データベース:カスハラ対応時は必ずレポートを作成して登録。全国どのコールセンターでも同じ対応ができる

先行してここまでやっている会社があるということは、逆に言えば「何をすればいいか分からない」という言い訳が通りにくくなったということでもある。

カスハラの最前線は、実は配達員ではなく電話窓口だった

ここが、オッサンが調べていて一番「へえ」と思ったところだ。現場にいる人間ほど意外に感じると思う。

宅配業のカスハラというと、玄関先でドライバーが怒鳴られている絵を思い浮かべる人が多いはずだ。正直、配達している当のオッサンもそう思っていた。ところが厚労省の宅配業調査を職種別に見ると、絵が変わる。

 
 
 
 
 
 
職種 過去3年間のカスハラ経験率 回答者数
電話窓口 73.9% 1,546人
管理職 67.6% 1,107人
対面窓口 64.1% 2,463人
営業職 40.1% 1,186人
ドライバー 32.2% 11,579人
その他 35.7% 834人
全体 42.6% 18,715人
 
 
 
 
 
 

電話窓口73.9%に対し、ドライバーは32.2%。倍以上の差がある。

そしてここで、さっきのヤマト運輸の数字が効いてくる。ヤマト運輸の社内アンケート(コールセンターのオペレーターで約8割)と、厚労省の宅配業調査(電話窓口で73.9%)は、調査主体も時期もまったく別なのに、ほぼ同じ水準を示している。

独立した2つのソースが、「宅配業のカスハラが最も集中しているのは電話窓口である」という同じ結論を指している。

考えてみれば理屈は通る。荷物が届かない、時間指定どおりに来ない、置き配が見当たらない——不満が溜まった状態から始まるのが電話だ。ドライバーとの接触は数十秒で終わるが、電話は逃げ場がなく、長時間の拘束にもつながりやすい。厚労省の資料でも「拘束的な言動」に「長時間にわたる電話、切電の拒否」が例示されている。

一方でドライバーには別の難しさがある。厚労省のマニュアルはこう指摘している。

荷物の集配を行うドライバーは、集荷・配達時に他の従業員や管理職が周りにいない状況で顧客対応をするため、顧客から迷惑行為を受けた場合、複数人で対応することやその場ですぐにカスタマーハラスメントの判断ができないことが考えられます。

**数字が低い=楽、ではない。**一人で対応せざるを得ないぶん、その場で判断できず、相談せずに抱え込みやすい。実際「何もしなかった」が24.0%という数字がある。

実体験:持ち戻ってもクレーム、置いてもクレーム

冒頭に書いた話を、もう少し丁寧に書く。オッサンが実際に受けたクレームだ。

1回目

  • 荷物の指定は「ドア前置き」、いわゆる置き配
  • ところが建物がオートロックで、そもそも中に入れない
  • インターホンを鳴らす → 出ない
  • 電話をかける → 出ない
  • 置く手段がないので、持ち戻る
  • 後日 →「置いてない」とクレーム

2回目(別の日・同じ人)

  • たまたま同じ建物の別のお宅への配達があり、エントランスに入れた
  • だから指定どおり、ドア前に置いた
  • →「どうやって入った」とクレーム

置かなければ「置いてない」、置けば「どうやって入った」。どっちを選んでも詰む。

この件、法律の枠組みに当てはめるとどうなるか

厚労省の指針は、「言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの」の例として、次の4つを挙げている。

  • そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

3つめだ。オートロックで入れない建物にドア前置きを指定し、インターホンにも電話にも応答しないというのは、実行する手段がない指示を出しておいて、実行できなかった結果を責めている構図に近い。

さらに、同じ人から日を変えて逆方向のクレームが来ている点は、宅配業の被害類型で2番目に多い「継続的な(繰り返される)、執拗な言動」(61.8%)につながる話でもある。

ただし、ここは正確に書いておきたい。カスハラかどうかの判断は、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、態様・頻度・継続性、行為者との関係性などを総合的に考慮して決めるものだ、と指針にはっきり書いてある。オッサンが「これはカスハラだ」と言い切れる立場にはないし、この記事もそう主張するものではない。会社が定めた判断基準に照らして判断されるべき話であって、そこが今回の義務化のキモでもある。

客が嘘をついているわけではない、というのが厄介なところ

このクレームがしんどいのは、相手が悪意の塊というわけでもないところだ。

受け取る側からすれば、「置き配指定したのに置かれていない」も「知らない人間が建物に入っていた」も、それぞれ本人の中では筋が通っている。オートロックのマンションで、赤の他人が入ってきたら不安になるのも分かる。

噛み合っていないのは人間じゃなくて、「オートロックの建物」と「ドア前置き指定」が両立しないという構造のほうだ。

だから、これは現場の人間ががんばって解決できる話じゃない。会社が「この場合はこうする」を先に決めておくしかない。

だから10月1日の義務化に意味がある(と思いたい)

今回の措置義務の2番目に、こう書かれている。

カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する

**「あらかじめ定めた」**の部分だ。トラブルが起きてから現場が一人で判断するのではなく、会社が事前に類型ごとの対処を決めて、全員に周知しておけ、という話。オートロック×置き配指定のような、現場でしょっちゅう起きるのに毎回アドリブで対応している類型は、まさにここで決めておくべきものだと思う。

数字にも表れている。宅配業の調査では、**40.4%が「カスハラの判断基準がわからない」**と答え、57.1%が「謝り続けた」と答えている。判断基準がないから、とりあえず謝るしかない。そして24.0%は、受けたあと何もしていない

厚労省のマニュアルも、ドライバーについてこう書いている。

荷物の集配を行うドライバーは、集荷・配達時に他の従業員や管理職が周りにいない状況で顧客対応をするため、顧客から迷惑行為を受けた場合、複数人で対応することやその場ですぐにカスタマーハラスメントの判断ができないことが考えられます。

そのとおりで、玄関前に一人で立っているときに相談できる相手はいない。だからその場で判断させない仕組み——事前のルールと、後から相談できる窓口——を会社が用意しろ、というのが今回の義務の中身だ。

正直に言えば、法律が変わったから明日から現場が楽になる、とは思っていない。ただ、「これは謝る話じゃありません」と言える根拠が会社側に用意されるというのは、今までとは違う。それだけでも意味はあると思っている。

[画像挿入:置き配された荷物の写真/alt=”置き配 ドア前置き 宅配トラブル”]

受け取る側が知っておきたい「これはアウト」の線引き

企業向けの解説はあちこちにあるが、荷物を受け取る側が何に気をつければいいかを書いた記事はあまり見かけない。オッサンを含め、多くの人にとってはこっちが本題のはずなので、厚労省の宅配業マニュアルに載っている具体例を挙げておく。

アウトになり得る要求の例

  • 分単位での時間指定(「10時ちょうどに持ってこい」)
  • 指定場所以外への再配達の要求など、過度な配送指示
  • 実行する手段がない指示(オートロックで入れない建物へのドア前置き指定+インターホン・電話とも応答なし、など)
  • 配達前に必ず電話を入れろ、営業時間外に配達しろといった特別扱いの要求
  • 運賃の著しい減額の要求
  • 着払い料金や配達した物品の代金など、根拠のない金銭要求
  • 対応者の個人情報を聞き出す(フルネーム、連絡先など)
  • 精神的苦痛を理由とした慰謝料請求、対応時間を理由にした「迷惑料」の請求

アウトになり得る言い方の例

  • 「今すぐ荷物を持ってこい」「早くしろ」「謝罪しろ」といった強い命令口調
  • 配達の度に繰り返される理不尽なクレーム
  • 要求が通るまで繰り返し電話・来店する
  • 言い間違いや説明の間違いを執拗に指摘する
  • 過度な謝罪や謝罪文書の要求
  • 長時間の電話、切電の拒否

判断基準として厚労省が示しているのは「平均的な労働者の感じ方」だ。そして重要な注意書きがある。

これまでの業務経験から、「この業界ではこれくらいは当たり前・普通であり、カスハラではない」などと安易に判断してはなりません。

さらに、強い苦痛を与える態様の言動なら、1回でもカスハラに該当し得るとされている。「何度も言ってないからセーフ」ではない。

読売新聞が2026年8月25日に報じた記事には、関東地方の40代宅配ドライバーの証言として、午前中指定の荷物を11時過ぎに届けたところ「もっと早くできないのか。午前中ギリギリで届けるなんて失礼だ」と迫られた例が紹介されていた。約束は守られているのに責められる、という構図だ。

なお、企業側が悪質と判断した場合の対応も指針に沿って整理されつつある。厚労省のマニュアルには、執拗な問合せについて「不合理な問合せが2回きたら注意し、3回目にはこれ以上は対応できない旨を伝える」「それでも繰り返される場合は威力業務妨害罪を視野に入れ、警察へ通報することも検討」と書かれている。10月以降、この線引きが会社の方針として明文化され、実際に運用される会社が増えるはずだ。

悪気なく加害側に回らないために

念のため書いておくが、この記事は「客は黙っていろ」という話ではまったくない。荷物が届かない、破損している、指定と違う——事実を伝えて改善を求めるのは、当然の権利だ。厚労省も「顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません」とわざわざ明記している。

問題になるのは、要求の中身か、伝え方のどちらかが線を越えたときだ。そして越えている側は、たいてい自分では気づいていない。オッサンが受けた置き配のクレームだって、相手には相手の言い分があった。

何が普通のお願いで、何が実行不可能な要求なのかを知っておくだけで、悪気なく加害側に回る事故はかなり減らせると思う。

よくある質問(FAQ)

Q1. カスハラ対策の義務化はいつから? A. 2026年10月1日からだ。改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)が施行され、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務づけられる。

Q2. 中小企業にも猶予期間はないの? A. 設けられていないとされている。パワハラ防止法のときは中小企業に猶予期間があったが、今回は同様の経過措置がなく、2026年10月1日から一律に適用される。労働者が1人でもいれば対象と解されている。

Q3. 違反したら罰則はある? A. 直接の刑事罰(懲役・罰金)は規定されていない。ただし報告徴求命令・助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名を公表される可能性がある。

Q4. クレームを言ったら全部カスハラになるの?宅配で「時間指定どおりに来なかった」と抗議するのは? A. 苦情がすべてカスハラになるわけではない。厚労省も「顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません」と明記している。事実を伝えて改善を求めること自体は問題ない。判断されるのは、言動の内容が契約内容からして相当性を欠く場合(分単位の時間指定、指定場所以外への再配達の要求など)か、手段や態様が相当でない場合(強い命令口調、暴言、威圧、執拗さ、長時間電話を切らせないなど)だ。

Q5. パート・アルバイトや派遣社員も守られるの? A. 守られる。厚労省の資料では、正社員だけでなくパート・アルバイト・契約社員などの非正規雇用労働者、および派遣労働者も「労働者」に含まれるとされている。

まとめ

  • 2026年10月1日から、すべての事業主にカスハラ対策が義務づけられる。労働者が1人でもいれば対象で、中小企業向けの猶予期間も設けられていないとされている
  • 企業が講ずべき措置は全10項目。うち「特に悪質なカスハラへの抑止措置」はカスハラ特有の項目
  • 刑事罰はないが、勧告に従わなければ企業名を公表され得る
  • 厚労省調査で、カスハラ経験率は全業種10.8%に対し宅配業は42.6%。約4倍
  • カスハラが最も集中しているのは配達員(32.2%)ではなく電話窓口(73.9%)。ヤマト運輸の社内調査(コールセンターのオペレーター約8割)とも一致する
  • 「ヤマト運輸の8割」はコールセンターのオペレーター対象の社内アンケート。全社員やドライバーの数字ではない
  • 「置き配指定なのにオートロックで入れない」のような、現場が毎回アドリブで処理している類型を会社が事前に決めておくことが、今回の義務の中身

10月1日を過ぎると、宅配に限らず、コールセンターや店頭の対応が変わってくるはずだ。「前はやってくれたのに」という場面も出てくると思う。そのときに「客なんだから」と押すのか、「そういう決まりになったのか」と引くのか。この記事を読んだ人には、後者を選べる側でいてほしい。

受け取る側の人へ。 今日から一つだけやるとしたら、置き配指定をしている住所が本当に配達員が入れる建物なのかを確認してみてほしい。オートロックなら、暗証番号を備考に書くか、宅配ボックスや玄関外の別の場所を指定先にするだけで、双方の事故がひとつ減る。

同業の人へ。 10月1日以降、自分の会社が「あらかじめ定めた対処の内容」をちゃんと出してくるかどうかは見ておいたほうがいい。出てこないなら、それ自体が措置義務の未対応ということになる。


出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました